清生のこと「持ちネタ『たらちね』」

持ちネタの記録を。

「たらちね」は一番最初に覚えた噺。

落研に入って最初にやるネタは先輩が「これ覚えてきて」と指定してくれる。
当時は先輩も指導がしやすいように、先輩自身が演ったことがあるネタの中からそれを選んでくれた。

落研に入る前に「たらちね」を聞いたことは無かった。
部室にあったカセットテープを借りて聞たのが初めて。

当時落研にあった「たらちね」のテープは、林家木久蔵(現木久扇)・二代目古今亭圓菊・五代目柳家小さん。
木久蔵・圓菊のは十五分程にまとめられていて、初心者が挑戦するのに時間も程良く、先輩としてはこっちで覚えて欲しかったらしい。
でも私は小さんので覚えた。小さんの音源は二十五分くらいあった。先輩は少し困っていた。

たいてい一年生だと前座扱いで、発表会や出前寄席なんかでも最初に出る。そいつが二十五分ある噺をやるなんて、正直後から上がる先輩からしたら迷惑な話だし、お客さんも困る。そんなことまだ知らないから、小さんの「たらちね」を一生懸命コピーしようと頑張った。でやっぱり二十五分かかる「たらちね」に仕上がった。

器用な人なら、長いネタも部分部分端折って短く編集するんだろうけど、そういうことは出来なかった。初めてだし。
持ち時間の関係で、しょうがないからサゲまで行かず、婚礼の夜の自己紹介のとこまでで切ったりしたことはあった。

当時は、小さんの音源を元にテープ起こしの要領で台本を書き起こし、それを一字一句暗記した。
一年生の六月か七月あたりに始めて、夏休みはそれをひたすら練習。噺を覚えるのは当時から時間が掛かっていた。

初高座は、お手本通りそのまんま演った。
私の初高座は、大学一年生の夏休みの終わり。九月。三回目の東北大学の落研との合同落語会。会場はエルパーク仙台のホール。仙台ジャズフェスと同じ日だった。

ウケたかどうかはあんまり覚えてない。でも、笑いの量は大したことなかったはず。
緊張はした。とりあえずサゲまで完走は出来た。

翌年二月に次の噺をネタおろしするまで持ちネタはこの「たらちね」だけ。
初高座のあと出前寄席で亘理町まで行き、「たらちね」を演った記憶がある。これが初めての出前寄席。秋だったと思う。先輩に連れて行ってもらって遠足気分だったのは覚えている。

「たらちね」は一番付き合いの長いネタ。捨てないで今でも持っている。

付き合いが長いので、時々で変遷はある。

丸っきり小さんの(出来の悪い)コピーのまま演っていた時期。

他の音源を参考に途中を端折ったり、付け足したりしていじくり回していた時期。

落語マニアなんでエアチェックしたものを中心に「たらちね」の資料も増えた。
少しずつではあるが、落語のCDの販売ラインナップが増え始めてきた時期。
音源は、八代目林家正蔵、三代目三遊亭金馬、八代目春風亭柳枝、柳家花緑。
入船亭扇遊の速記も手に入れた。これは落語をやってみよう的な本に載っていて、実際に演じる上で噺家さんが工夫しているポイントが記載してあって大変勉強になった。
そういった新たに接した資料から影響を受けた時期。

素人なりに付け足したり削ったりして、今は17分くらいになった。
言い立ての所も翌日の朝ご飯に至るまでの騒動もウケやすい。
お目出度い噺だから、そういう部分も大事にしたい。お客さんが楽しい気持ちになれるように演りたい。

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