清生のこと「持ちネタ『家見舞い』」
落研に入って三つ目に覚えた噺が「家見舞い」だった。二年生の夏のこと。
私の実力不足もあり、出前寄席などで落語を演っても、それまでの持ちネタの「たらちね」「ろくろ首」ではあんまりお客様に笑って頂けなかった。
演るからにはお客様に笑って頂かないと張り合いが無いし、またウケなかった時のあの気まずい感じは辛かった。
何か爆笑を取れるようなネタは無いか。
自分の技量を上げようというのではない。下手で面白くない自分が演ってもウケそうな噺は無いかと考えたのは、今振り返っても少し情けない。
「家見舞い」という噺を初めて聞いたのは、NHKラジオで放送していた演芸番組「真打ち競演」。演者は春風亭鯉昇、今は改名して瀧川鯉昇。
初めて聞いたときひっくり返って笑った。下がかったネタだけど、やっぱり後半のご馳走になる件は面白い。
テープに録音していたので、挑戦することに決めた。
覚えて演ってみたら、案の定私でもウケた。
ネタおろしは二年生の九月の発表会。
観に来て下さっていた、落研二期生のOB・胃仲家百勝さんにも褒めて頂いた。その事も相俟って、得意になって演りまくった。
落語で笑いをとる事を覚えた、私の中で大事なきっかけになった噺。
在学中、そして卒業して仙台新撰落語会に入会して七~八年くらいまでの間は、口演した数はこの「家見舞い」が一番多いかも知れない。
やっぱりウケるし。あと、残念ながら他の持ちネタはそんなにウケなかったので、ここぞという時は「家見舞い」に頼らざるを得なかった。
振り返ると、そればっかりだと他のネタが育たないし、それに頼り切りになると自分も上達しないので宜しくない。というのは今になって分かること。
特に意識していたわけじゃないが、ここ五~六年の間は全く「家見舞い」を演らなくなってしまった。
たまたま、持ち時間なんかの兼ね合いで演る機会が無かったとか。あるいは、落語観た後にお客様の会食があるみたいな席に呼ばれると演りにくかったり。そういうのが続いたせいもある。
また、他にもウケるネタを覚えたり、有難い事にようやく他の噺でもお客様に笑って頂けるようになったので、「家見舞い」の出番が減ってきたタイミングでもあった。
それでも、たくさん演っていたので、随分御無沙汰でも台詞は割とスラスラ出てくる。
この噺、私が参考にした瀧川鯉昇の演り方と、主に五代目柳家小さん系の演り方と、噺の流れが二つあるようだ。
鯉昇のは、最初江戸っ子二人が「世話になっている兄貴分に所帯祝いを持って行かなきゃならない」と話して、そこから道具屋に行って、肥甕を買う、という流れ。
道具屋の店主は二人が肥甕を買うのを止めない。むしろ扱いが厄介な肥甕を二人に押しつけているような感じ。
鯉昇の他に、入船亭扇遊、五街道雲助の「家見舞い」もこの流れであった。
手元にある『古典・新作落語事典』にはこの筋で載っている。
五代目柳家小さんのは、江戸っ子二人が兄貴分の家に行き、祝い物は何が良いか訊ねて「水瓶にしよう」となり、道具屋に行って「持ち合わせが無くてちゃんとした水瓶が買えない、しょうがないから肥甕で」となる流れ。
道具屋の店主は二人が肥甕を買うのを止めている。止める店主を振り切って二人は肥甕を買ってしまう。
小さんのご一門はほとんどこの流れの様子。
『古典・新作落語事典』には、解説欄に「こういう流れもある」的な感じで掲載されている。
今年に入ってからは、二回高座に掛けた。数年ぶりに演ったけど、楽しく喋れた。お蔵にしないで、定期的に演っていきたい。
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